研究概要 |
再燃癌進展の原因の一つとしては,再燃癌細胞自身によるオートクリン作用や周囲の間質細胞,脂肪細胞から産生される増殖因子によるパラクリン作用による機構の存在が考えられている。そこで,本年度は昨年度に引き続き,脂肪細胞,前立腺癌細胞,前立腺間質細胞の相互作用と前立腺癌の進展への関与についての研究をおこなった。すでにヒト脂肪細胞培養上清は前立腺癌細胞,前立腺間質細胞を増殖させること,幾つかのサイトカインがヒト脂肪細胞培養上清中に多く含まれることを明らかとしている。本年度ではヒト脂肪細胞培養上清中に特に多く含まれていたサイトカインであるIL-8及びMCP-1について研究した。前立腺癌細胞の増殖については何も加えていないヒト脂肪細胞培養上清と比較して,IL-8もしくはMCP-1の中和抗体を加えたヒト脂肪細胞培養上清では前立腺癌細胞の増殖が抑制された。また,ヒト脂肪細胞培養上清で刺激した前立腺癌細胞より細胞タンパクを調整し,ウエスタンブロットを用いて細胞内のシグナル伝達を検討した結果,MAPKのリン酸化が亢進していた。更に,IL-8もしくはMCP-1の中和抗体を入れることでMAPKのリン酸化亢進は抑制された。このことから,ヒト脂肪細胞培養上清による前立腺癌細胞増殖の一因としてヒト脂肪細胞から分泌されているIL-8及びMCP-1が重要であると推察された。また,興味深いことに,我々が以前より報告してきたアンギオテンシンII受容体ブロッカーが脂肪細胞培養上清刺激による前立腺細胞増殖を抑制することがわかり,これについても今後更に検討を続けていく。
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