研究概要 |
子宮内感染等を伴わない人工妊娠中絶患者から、末梢血および脱落膜組織を採取した。採取脱落膜よりリンパ球を分離し、これを抗CD3抗体、抗CD56抗体、および抗CD161抗体にて多重染色を行い、CD3(+)CD56(+)CD161(+)、 CD3(+)CD56(+)CD161(-)、 CD3(+)CD56(-)CD161(+)NKT細胞の頻度をフローサイトメトリーにて解析した。その結果、脱落膜にはCD3(+)CD56(-)CD161(+)NKT細胞が末梢血に比較し、高頻度に存在することが明らかとなった。さらに、αβTCR陽性CD161陽性の細胞集団を高速自動セルソーターを用いて精製分離し、PHA刺激することにより短期間培養の細胞株を樹立した。樹立された細胞株を抗CD3、抗CD28抗体で刺激し、これにより産生されるTh1/2サイトカインのバランスを評価したところ、IL-4/IFNγ、 IL-10/IFNγ産生比の高いTh2傾向を示すことが明らかとなった。また、TCRファミリー特異的primerを用いた解析により、これらの細胞は、多様なTCRVα鎖およびTCRVβ鎖を発現するnon-invariant NKT(non-iNKT)細胞であることが明らかとなった。この細胞集団は多様なTCRを発現しているにも関らず、胎児および父親由来の抗原を認識しなかったが、CD1a-, CD1b-, CD1c-, CD1d-, mockの各遺伝子を安定に発現する細胞株(C1R、 HeLa、 BeWo)を用いた解析により、CD1d分子を特異的に認識することが明らかとなった。さらに、この細胞集団は父親由来のアロ抗原に対する混合リンパ球反応(MLR)を抑制した。 Th2サイトカインは、トロホブラストの増殖を促すことが知られている。したがって、脱落膜中のnon-iNKT細胞は、トロホブラストに発現するCD1d分子、あるいはこれによって提示された糖・リン脂質抗原を認識することで胎児の拒絶を抑制するとともに胎盤の発育を促すなど妊娠維持における中心的な役割を担っていることが示唆された。
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