研究概要 |
内耳への遺伝子導入は感音難聴の新しい治療戦略になりうると考えられている。過去には、主にアデノウィルスベクターがその遺伝子導入効率の高さから用いられてきたが、我々は毒性の少ないアデノ随伴ウィルスベクター(AAV)に着目し、臨床応用可能な外リンパ腔への投与手技を用いてそのシステムを検討した。モルモット蝸牛基底回転の外リンパ腔内へeGFPを発現する6種のCMVプロモーターを有するAAV(2/1、2/2、2/5、2/7、2/8、2/9)を局所投与し、遺伝子発現の分布を観察した。7日後に断頭し、surface preparationと凍結切片を作成し、その分布を観察した。聴覚機能の評価として、投与前と投与7日後にABRを施行し、その変化を比較した。今回使用したAAVの血清型6種全てにおいて、蝸牛内への遺伝子導入が可能であり、特に内有毛細胞への発現が認められた。最も効率よく遺伝子導入可能であったのはAAV-2/2であり、外有毛細胞へはAAV-2/1,-2/2,-2/9で遺伝子発現を認めた。Spiral limbusやSpiral ligamentの線維細胞にも遺伝子発現を認めるものもあった。形態学的評価ではAAV投与後に有毛細胞の消失は認めず、またABRにおいても閾値変化はみられなかった。このアプローチによりAAV-2/2が最も効率よく蝸牛へ遺伝子導入可能であり、ABR上閾値変化がみられず、安全であり臨床応用に結びつく可能性を示唆していた。また、当大学病理学教室と共同でマウス大腿骨から骨髄細胞をとりだし、培養したのちに間葉系の幹細胞を抽出した。間葉系幹細胞へ上記のAAVを使用して遺伝子導入を試みているがまだ結果は得られていない。
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