研究概要 |
2型糖尿病患者の網膜動脈循環において、末梢の血管抵抗または血管コンプライアンス(硬化性)を反映するPulsatility ratio(PR)が、網膜症の病期進行に伴い増大することを昨年報告した。今年度は、2型糖尿病患者の網膜細動脈のPRと、大動脈壁硬化の指標であるAugmentation Index(AI)の関係について初期糖尿病網膜症患者を対象に検討した。 糖尿病があり、網膜症なし(NDR)群15名(平均年齢55歳)と背景網膜症(BDR)群10名(53歳)を対象とした。レーザードップラー眼底血流計を用いて、網膜動脈の血管径、血流速度を同時に計測し、血流量(RBF)を算出した。収縮期血流速度と拡張期血流速度の比からPRを算出した。オムロンコーリン社製の血圧脈波検査装置HEM9000-AIを用いて、橈骨動脈からAIを測定した。 RBFは、NDR群(11.1±4.0μ1/min、平均値±標準偏差)とBDR群(10.7±3.1μ1/min)の間に有意差はなかった(p=0.79)。PRは、NDR群(3.3±0.9)に比べBDR群(4.5±1.3)で有意に増大していた(p=0.024)。AI値は、NDR群(86.1±10.1)とBDR群(77.6±18,2)の間に有意差はなかった(p=0.15)。また、AIとPRに有意な相関を認めなかった(r=0.16,p=0.46)。 以上のことから、本研究の糖尿病患者では、大動脈壁硬化(AI値)と末梢の血管硬化(PR値)は連動していなかった。背景網膜症患者では、大動脈壁硬化の進行は認めないものの、末梢側すなわち網膜細動脈硬化が起きていることが推測された。
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