研究概要 |
マイボーム腺機能不全患者の涙液中の脂質蛋白バイオマーカを高速液体クロマトグラフィー/質量分析システムを用いて検討した。涙液,マイボーム腺分泌物の採取にはシルマー試験紙を用い,5マイクロリットル程度の微量試料から脂質を抽出して分析を行った。分析にはカラムスイッチング3溶媒グラジエントHPLC/イオントラップMS法を用い,涙液中性脂質(コレステロールエステル,ワックスエステル)とリン脂質を分析した。この方法により涙液のリン脂質の多量成分を検出できるようになったが,マイボーム腺分泌物からはリン脂質は検出されなかった。涙液には複雑な分子種組成のコレステロールエステルやワックスエステルが相対的に多量に含まれていた。これらの脂質はカラムから最初に溶出されるが,非特異的吸着のためカラムに残り,テーリングして,遅れて溶出されるリン脂質などの分析を著しく妨害する。リン脂質が溶出される保持時間帯にはバイオマーカの候補の生理活性脂質が多く含まれるので,これらの微量成分を分析するためにワックスエステルのテーリングを回避する方法を開発する必要があることが分かった。また,中性脂質とリン脂質の間に溶出されるセラミドや糖脂質の検出感度の向上も検討する必要がある。このような涙液中の脂質の網羅的解析を進めていくことによって,ドライアイのバイオマーカや新しい治療の標的分子の同定が可能となるものと考えられた。
|