研究概要 |
インターフェロン・ガンマー(IFNγ)による抗腫瘍作用は,腫瘍細胞に対する直接的な細胞増殖抑制だけでなく,宿主免疫応答の活性化を介した間接的な作用により行われている。IFNγによって誘導されるケモカインMig,IP-10は、血管新生抑制作用を持ち、また活性化したT細胞を腫瘍局所に動員することによって宿主免疫応答を活性化する重要な抗腫瘍性ケモカインである。一方、腫瘍細胞が組織内で増殖し、拡大してゆくには血液からの酸素、栄養供給が必要である。腫瘍細胞がある一定以上の大きさになると、周囲の血管からの酸素、栄養供給が滞り、腫瘍細胞は低酸素状態に陥る。我々は、低酸素がIFNγシグナル伝達経路およびその下流の遺伝子発現に及ぼす影響について検討を行った。その結果、低酸素はMigおよびIP-10、転写因子STAT1やIRF-1などのSTAT1依存性遺伝子の発現を抑制するが、この抑制はSTAT1シグナル伝達経路の抑制によるものではないことを明らかにした。この遺伝子発現抑制メカニズムを詳細に検討した結果、(1)HIF1α siRNAを用いた実験によりMigおよびIP-10の発現抑制に低酸素により誘導される転写因子HIFlαは関与しないこと、(2)HDAC inhibitorであるトリコスタチンAを用いた実験から、低酸素によるSTAT1依存性遺伝子発現抑制にヒストンのアセチル化は関与しないことが明らかとなった。また,低酸素によりSTAT1はMigおよびIP-10プロモーターに結合するものの、RNAポリメラーゼIIおよびコアクチベーターSRC-1のプロモーター上へのリクルートが阻害された。さらに、STAT1 Ser727のリン酸化が低酸素により抑制された。これらのことから、低酸素環境ではSTAT1 Ser727のリン酸化が低下し、コアクチベーターやRNAポリメラーゼを含むエンハンソームの形成が阻害されSTAT1依存性遺伝子のプロモーター上へのエンハンソームのリクルートを抑制している可能性が示唆された。
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