研究概要 |
本研究は,1)顔面発生における硬組織形成に対するWntシグナル機構を明らかにする,2)硬組織における形成制御因子を解明する,3)これらを応用した再生医療の可能性を探ることを目的とした.硬組織形成に関わる重要な因子として,Wnt,BMPなどがあげられる.特にWntは初期発生や成体組織の機能維持に至る様々な局面で機能し,細胞の分化方向を支持するものである.組織学的解析において,Wnt antagonistとして考えられているsclerostin/SOSTは,骨芽細胞や骨表面近傍の骨細胞ならびに成熟期にある象牙芽細胞に強い局在が見られた.BMPシグナル経路にあるSmad4やWntシグナルの古典的経路にあるβ-cateninも類似した局在が得られた.また,マウス肋骨骨折モデルの実験では,仮骨形成初期にBMP-2の発現が上昇した後,徐々に発現の減少が見られた.一方,SOSTは,仮骨形成期後期に,骨芽細胞および骨細胞にSOSTの発現が認められた.さらに,ラット大腿骨に骨欠損を作製した後,器官培養実験を行った.その骨欠損修復はSOST添加により抑制されたが,LiCl添加により骨修復を促進した.これらの所見は,1)Wnt antagonistとして働くsclerostin/SOSTは成熟した硬組織に強く発現する.2)硬組織において,WntシグナルとBMPシグナルはパラレルに働き,Wnt antagonistが骨などの硬組織の形状形成を制御する因子である.3)それら因子により,骨欠損治癒の制御が可能であることを示唆している. 本研究の成果は,硬組織形成制御因子の同定に役立つものであり,硬組織形成法の開発,さらには顎欠損補綴や歯槽堤形成などの顎顔面領域の再生に大きく貢献できると期待される.
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