研究概要 |
歯周病は大多数の成人が罹患する主要な口腔疾患であり,発症主因を口腔細菌とする感染症であるが,その発症や病態進行に伴う免疫応答とその破綻のバランスについての分子メカニズムについての理解は依然混沌とした状態が続いている。近年,単なる感染症として捉えられない歯周病の複雑さの背景には歯周組織における酸化ストレスの関与があることが考えられている。Thioredoxin(Trx)は全ての体細胞に存在する強力な抗酸化分子であり,細胞増殖,癌,アポトーシス等,様々な細胞応答に関与することが示唆されてきた。本研究では歯周病発症初期のステップである,付着歯肉の炎症・破壊・開放化,細菌の侵入と蓄積,結合組織や免疫担当細胞(主に好中球)の炎症応答に焦点を絞り,これらの各ステップにおけるTrxの関与ついて,免疫学的ならびに分子生物学的観点から詳細に解析を行った。本研究により,Trxが微生物の認識とその下流シグナル,細胞の脱穎粒などの感染防御機構において重要な役割を果たすことがあきらかになってきた。特にTrxはグルタチオンとともに,生体内で産生されるフリーラジカルである一酸化窒素が様々なタンパク質を一過性にニトロシル化する現象を制御していた。Trxの作用は抗酸化作用と捉えられているが,このような分子機構を介しても防御作用を発揮しているものと推測される。本研究の遂行により,Trxのもつ生体防御性の分子メカニズムの崩壊が歯周病の発症に関連することが考えられる。
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