研究概要 |
義歯床下骨組織の吸収を防止することは補綴治療の永続性を得る上で非常に重要である.本研究は,義歯床下の微小血管障害と歯槽骨吸収程度の関連を検索し,義歯床下の微小血管障害を早期に発見し適切な対応を図ることが歯槽骨の吸収を防止することが可能であるとの仮説を立証する. 実験動物には,10週齢のWistar系雄性ラットを用い,10週齢時に両側上顎第一臼歯を抜歯し,5週間の治癒期間を設定した.この顎提に対して咀嚼時に33kPaのメカニカルストレスを負荷することが可能な装置を装着した.装置粘膜面の被圧縮性を,粘膜調整材(T),シリコーン系軟性裏装材(S),アクリル系軟性裏装材(A)あるいは義歯安定剤(H)を使用し異なる6条件を設定した.毎週定時に組織血液量を計測するとともに装置適用期間の終了した実験動物の上顎骨を採取し,4μmの前頭断連続切片を作製し,全骨吸収量を算出した. 対照群の示した組織血流量は実験期間を通じてほぼ一定の値を示した.H群とT群では実験期間を通じてほぼC群に近い値を維持した.一方,メチルメタクリレート樹脂群(M)では,実験期間を通じてC,HおよびT群に比べて有意に小さい値を示した(p<0.05).SおよびA群では,M群と同様の傾向を示して変化したが,その組織血流量の阻害程度はM群に比べて少なかった.骨吸収については組織血流量の阻害程'度の関係に類似した変化を示し,実験期間を通じてM,A,S,HおよびT群の順に義歯によるメカニカルストレスによって生じる骨吸収量は少なかった.また,組織血流量と骨吸収量との間には有意な相関関係(y=-0.03x+1.48,R=0.766,p<0.001,n=100)が存在した.以上のことから,歯槽骨の吸収は微小血管障害に伴って生じる可能性が示唆され,血流の計測によりその後の骨吸収程度を予測できる可能性が示された.
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