研究概要 |
本研究の目的は、機械的性質や耐食性に優れた新規チタン合金を開発することである。現在までに、Ti-Cu, Ti-Cr二元合金に着目し、さらなる諸物性を改善する目的で三元合金化を含めた検討を行い、Ti-Cu, Ti-CrをベースにTi-Cu-Pd, Ti-Cu-Cr三元合金を考案した。昨年までの研究結果において、試作Ti-10.0Cu-Cr合金の鋳造性は、Cr添加による三元合金化により低下することを明らかにした。昨年に続き、本年度Ti-10.0Cu-Pd合金の鋳造性を評価したところ、Pd添加(1.0, 3.0, 5.0, 7.5, 10.0mass%)による鋳造性の低下は認められず、Ti-Cu-Cr系とは異なる傾向が確認できた。鋳造システムは異なるものの、既存の歯科用合金(金銀パラジウム合金)と比較しても、本研究に使用したパターン形状では差異は認められなかった。 元来、耐食性に優れると言われてきたチタンおよびチタン合金が.口腔内環境の条件(フッ化物配合歯面塗布剤や洗口剤)により、容易に腐食が進行し金属イオンの溶出や金属の変色が起こると言われている。そこで、フッ化水素酸を生成する酸性フッ化ナトリウム水溶液と過酸化水素中での試作Ti-Cu, Ti-Cr二元合金の変色を調べた。過酸化水素を含む溶液中への浸漬前後の変色度(色差)は、Ti-Cu(10mass%), Ti-Cr(20mass%)合金ともに10以下の値を示し、変色の程度は小さい傾向を示した。一方、フッ化ナトリウムを含む溶液では、Ti-Cu合金は10以上の変色を認めたが、Ti-Cr合金はほんのわずかな変色であった。チタンとクロムをベースとした合金は、フッ化水素酸と過酸化物の環境下でも変色は少なく、良好な機械的性質をもち合わせることからも、歯科鋳造用チタン合金開発においてのマーカーとなることが示唆された。Ti-Cr二元合金が耐食性や機械的性質に優れているが、三元合金化による検討では、Ti-Cu-Cr系はこれらの特性は良好であることからも鋳造性の改善が可能となれば、十分に臨床応用できると思われる。
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