研究概要 |
歯肉に存在する樹状細胞(dendritic cell;DC)は、貪食によるprocessingを経た菌体抗原の獲得とmaturationを経て、T細胞に抗原提示することにより、歯周病原性細菌に対する特異免疫応答の開始に重要な役割を果たす。DCの遊走・定着の過程においてはリンパ球だけではなく歯肉線維芽細胞(HGF)とのcontactが生じ、何らかの活性化がもたらされる可能性が想定される。本研究においては、HGFとDC間の細胞接着機構にPgLPSが及ぼす影響についてE.coli(Ec)LPSを対照として比較、検討を行い、以下の結果が得られた。 1)TNF-α刺激HGFでは未刺激HGFに比べてDCとの接着が有意に亢進した。また、EcLPSでHGFを刺激した場合には、接着に有意な変化はみられず、PgLPS刺激では逆に抑制傾向がみられた。 2)未刺激HGFとの接着に関して、EcLPS,Pg線毛およびペプチドグリカンで刺激したDCは未刺激DCと比べて各々有意な接着亢進がみられたが、PgLPS刺激DCでは変化がみられなかった。一方、TNF-α刺激HGFに対しては、Pg線毛およびペプチドグリカン刺激DCでは接着能の増加がみられ、PgLPS刺激DCでは抑制傾向がみられた。 3)HGF上において、接着分子であるICAM-1,VCAM-1およびfractalkineともに発現がみられた。 4)DC上にICAM-1のリガンドであるLFA-1(CD11a/CD18)およびMac-1(CD11b/CD18)の発現が強くみられた。VCAM-1のリガンドであるVLA-4(CD49d)についてもわずかにDC上に発現がみとめられたが、fractalkineのリガンドであるCX_3CR1の発現は認められなかった。またEcLPS刺激DCではCD11a,CD11bともに発現の増加がみられたが、Pg線毛およびペプチドグリカン刺激では逆に発現が抑制されることが分かった。 5)DC上のLFA-1を中和抗体で前処理することによりHGFとの接着が強く抑制され、Mac-1抗体の前処理ではほぼ完全に接着が抑制されることが明らかとなった。一方、VLA-4抗体処理では細胞接着に影響はみられなかった。 以上より、DCとHGFの接着にはLFA-1/Mac-1とICAM-1を介した経路が主に働いており、DC上およびHGF上の接着分子を介して、DCの活性化や成熟化あるいはHGFの活性化が歯周組織内で生じている可能性が考えられる。(以上の内容は東北大学歯学雑誌第26巻第2号2007年において研究発表したものからまとめました。)
|