研究概要 |
【目的】 近年、脂肪細胞からのアディポサイトカイン産生に、マクロファージが関与する可能性が報告された。すなわち、脂肪細胞周囲血管に集積したマクロファージに由来するサイトカインが脂肪細胞に働いて、アディポサイトカイン(脂肪組織由来生理活性物質)産生が元進し糖尿病や動脈硬化が一層増悪するという、脂肪細胞・マクロファージ相互作用説である。一方、高感度CRPの上昇が虚血性心疾患の予知因子として有用であるという事実に代表されるように、軽微な慢性感染症が、動脈硬化の増悪因子として働く可能性が示唆されている。これまでに、代表的なアディポサイトカインであるIL-6およびMCP-1に注目し、脂肪細胞・マクロファージ共培養系に低濃度のLPS刺激を加えた際、LPS無刺激時と比較してIL-6で100倍以上、MCP-1セ約50倍、それらの産生性が充進することを報告した(Yamashita, et. al.,Obesity,2007)。しかしながら脂肪細胞由来アディポサイトカインは多種多様であり、マクロファージとの相互作用でIL-6やMCP-1以外の分子の産生性に変化があるか否かについては未だ明らかでない。そこで今回、脂肪細胞・マクロファージ共培養系を低濃度のLPSで作用させた場合のサイトカイン産生性の変化を知るため、抗体アレイの手法を用いて産生量が著明に増加する分子の解析を行った。 【方法】 1.細胞および培養 マクロファージ由来細胞株RAW264.7とマウス由来前駆脂肪細胞3T3-L1を使用した。3T3-L1を分化誘導し、誘導開始から14日後の細胞を分化脂肪細胞として用いた。 2脂肪細胞・マクロファージの共培養およびLPS刺激 分化した3T3-LI細胞(1x10^5cell/well)およびRAW264,7(5x10^4cell/well)を、0.4umの孔を有するメンブレンで上室と下室が分離され液性因子のみが各窒問を移動できるようにしたトランズウェルシステム(Corning)で共培養し、両細胞をE.coliLPS(1ng/ml)で24時間刺激した。 3.培養上清中のサイトカイン量の抗体アレイによる解析 回収した培養上清中のサイトカインを抗体アレイ(Ray Biotech,Inc)を用いて解析した。なお、産生性の変化が著明であったものに関しては、その量をEHSAキット(R&D)にて定量した。 【結果】 1.抗体アレイ法により、マクロファージ・脂肪細胞共培養系を低濃度細菌LPS刺激した際、先行研究で明らかにしたIL-6およびMCP-1ともに、RANTESとKCの産生性が元進していることが明らかになった。 2.ELISA法にて定量したところ、LPS刺激のあるマクロファージ・脂肪細胞共培養系では無刺激の場合よりも、RANTESについては約40倍、KCについては350倍以上に産生が元進した。 【結論および考察】 脂肪細胞とマクロファージをLPS刺激することで、IL-6やMCP-1以外にRANTESおよびKCといったアディポサイトカインの産生性が元進した。RANTESは脂肪細胞へのT細胞リンパ球浸潤に、KCは脂肪細胞における毛細血管新生に関与する可能性がある。すなわち、歯周病のような慢性の微細感染症に由来する抗原が、脂肪細胞における炎症性変化を充進することによって、動脈硬化や糖尿病をさらに悪化させる可能性が示唆された。
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