研究概要 |
マレイン酸イルソグラジン(IM)は,Helicobacter.Pylori刺激によって誘導される胃粘膜上皮細胞のIL-8産生を抑制し,細胞間連絡能を促進することにより胃粘膜防護治療薬として臨床応用されている。これまでに研究者は,IMがAggregatibacter aetinomycetemcomitans(Aa)およびAaの外膜タンパク質OMP29刺激によって誘導されるヒト歯肉上皮細胞(HGEC)のIL-8産生促進を抑制すること,および細胞間結合(ギャップジャンクション,タイトジャンクション)の低下を回復することをinvitroの研究において明らかにした。今年度の研究では,AaがIL-8を介してギャップジャンクションの機能を低下させていることを明らかにした。さらにサイトカイン(IL-1β)刺激下のHGECに対するIMの効果を調べたところ,Aaに対する効果と同様にギャップジャンクションの回復が認められた。これらのことから,IMは細菌やサイトカインによる細胞間結合の破壊に対し,予防的に働くことが示唆された。また,F344ラットを用いた動物実験においてAaを歯肉上皮に塗布することにより歯肉上皮下に炎症所見が確認され,ラット好中球遊走因子(CINC-2)の発現が上昇することが確認された。しかしながら,IMを投与することにより,Aaによって誘導される炎症が抑制される傾向にあることが確認された。これらのことから,IMが歯肉上皮下の炎症を抑制することによって,歯周病予防薬としての可能性があることが示唆された。
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