研究概要 |
昨年度末から今年度にかけて,ラオス南部のモン・クメール系の6つの村落にて妊娠中あるいは1年未満の乳児を持った母親(52名)を対象に,周産期における健康希求行動について半構成の質問紙を用いたインタビュー調査を行った。また,同じ地域の病院や診療所のANC(antenatal care)に従事する医療スタッフ(11名)およびANC受診後の妊産婦(8名)からも聞き取りを行った。 結果,妊娠中の健康問題は腹痛や胎児の位置異常といった自覚があった場合のみ受診行動をとり,それ以外は受診しない。さらに妊娠以前と妊娠中において特に仕事の量は変わらず,産後のyufai(産後養生として一時的に火で体をいぶす習慣)に備えて,妊娠中に薪集め,精米といった労働が増える傾向にあった。健康問題としては妊娠中より産後に多く見られ,その内容としては腰痛,発熱,頭痛,めまいといったものであった。健康希求行動の選択肢については,施術師か病院のどちらを選択するのか,症状の原因によって違いが見られた。その中でも,受診や薬の購入,施術師による治療という決定権は夫や姑にあり,自身は休息を取ることや薬草を用いるといった決定のみという傾向が見られた。彼らが緊急あるいは必要と考えるケースにおいて,現実に可能なrefer resourceを彼ら自身(家族,ヘルスボランティア,村長ら)で捻出し対処していることが明らかになった。 医療者は,人々が治療を求める際に一見「合理的ではない」選択をすることによって困惑させられているが,彼らとの「リスク」や「異常」のとらえ方のずれから生じる結果でもあると考えられる。さらなる課題として,当事者である女性,医療者,施術師などの行為者たちのそれぞれの「リスク」「異常」のとらえ方,そして相互の交渉のあり方について取り組みたい。
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