研究概要 |
ラットを使用して関節拘縮モデルを作成し,その関節構成体を病理組織学的に観察する事を目的に実験を開始した。関節の固定期間は2週間,4週間とし,2週固定では期間終了後に同期間制約を加えず飼育(以下,再可動群)し,関節構成体の変化を観察した。関節の固定により対照群に対して約30度の伸展制限を生じたが,再可動群では対照群と同様まで回復していた。関節構成体の病理組織学的所見では,大腿骨・脛骨の軟骨表層に線維芽細胞からなる滑膜に類似した膜様の組織が増生している像が観察され,表面に増生した膜様組織が半月板周囲から増生した肉芽様組織と癒着している像が観察された。膜様組織が増生している部分の関節軟骨では,酸性ムコ多糖体染色の染色性低下が認められ,関節の不動化による関節軟骨の多糖類産生能力の低下が示唆された。この変化は,再可動群においても改善は見られなかった。 また,関節構成体として膝蓋靱帯下部の脂肪細胞に着目し,細胞の面積を計測した。対照群,固定群,再可動群の順で脂肪細胞の面積には有意な減少を示した。脂肪組織を観察したところ,固定群,再可動群では脂肪細胞の萎縮と共に,周囲に線維性組織の増生が観察され,脂肪細胞の柔軟性の変化が示唆された。関節構成体に対する実験と平行して,不動化に伴う関節拘縮が神経・筋に及ぼす影響を検索する目的で,大腿後部を走行する坐骨神経を観察したところ,固定群では対照群と比較して神経周膜・神経外膜を構成する線維の狭小化及び密生化が観察され,神経外膜の脂肪細胞が萎縮し,線維芽細胞が増殖していることが観察された。これらの所見は,神経の滑走性の変化を示唆している。また,加齢ラットにて坐骨神経周囲の同様の部分を観察したところ,関節の固定を行っていないにも関わらず若年の固定群に近い変化が観察された。この事から,関節固定によって生じる変化と加齢によって生じる変化には,共通する機序がある可能性が示された。
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