研究概要 |
本研究では,基本的な触動作といえる押し込み動作により得られる触感を対象とし,触動作を行うヒトに着目することで,触感情報処理メカニズムを明らかにすることを目的としている。近年,様々な分野における品質や性能の評価,さらには設計分野において,ヒトの触感覚を考慮することが注目されつつある。現在,対象物に関する様々な物理特性が計測され,感覚値との比較がなされていることが多いが,未だ十分な一致は見られていない。ヒトに着目し,ヒトがどのような動作を行いそれによって何を抽出して触感情報として利用しているのかを明らかにする必要がある。 昨年度の検討結果より,押し込み動作により得られる触感の中でも,「やわらかさ」および「弾力性」が支配的な感性量であることが明らかになった。本年度は,これらを含む数種類の押し込み動作による触感の項目についてそれぞれ,評価時のヒトの動きおよび荷重の計測を行った。なお,対象物には触感の異なる数種類のクッションを用いた。ヒトの動きは3次元位置センサで計測し,荷重については力センサ付きテーブルの上に対象物を乗せることで計測した。得られた計測値より押し込み変位と荷重,押し込み速度と荷重の関係について検討した結果,同一の被験者では触感の各項目における動作に顕著な違いは見られなかった。また,被験者ごとで比較すると,荷重の大きさが異なっていたが,最大荷重で正規化すると,同一の対象物では被験者を問わず似た傾向を示すことがわかった。さらに,得られた動作および荷重の情報と各対象物の官能評価値とを比較した結果,押し込み変位と荷重の関係図よりも押し込み速度と荷重の関係図の方が,各触感の評価と関連付けられる特徴が見られた。これより,押し込み動作に伴う位置と荷重の時間変化も触感評価の重要な要素となっていると考えられる。
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