本研究の目的は、リン(P)等のドーパントイオン照射によるシリコン(Si)表面の改質素過程を、リアルタイムに計測するジステムの実現である。このためには、(1)リアルタイムに走査型トンネル顕微鏡(STM)で観察する精度、および(2)試料の表面処理の双方の技術向上が重要である。本年度は当初、主に(2)に関して、水素終端処理を真空中で実施するための機構の作製を計画しており、懸念だった試料表面近傍における分子状ガスの分解手法や、安全に実験室環境構築の検討を進めた。予算の都合上、実際の作製まで達成しなかのたが、その代わり、(2)と共に柱となる(1)に関して大幅な進展があった。 ドーパントを含む液体金属イオン源(LMIS)から引き出されるイオンビームは低輝度であり、イオン源の寿命も比較的短い。このため、そのLMISの短寿命の範囲内で、STM探針と試料表面の間の極小領域にイオンビームを確実に照準することが困難であった。ドーパントイオン照射過程のリアルタイムSTMT察には、短時間で正確なイオンビーム照準と、その後のできるだけ速やかなSTM観察への移行が必要である。そこで、新たなイオンビーム照準システムを開発した。 本システムは、吸収電流像(AEI)表示ユニット(イオンビームを走査して被照射物に流れる吸収電流の大小を二次元マッピングし、イオン照射領域を可視化する機構)と、仮標的(アライメントマークを備えた金属板で、イオンビームの照準と、その照準中の観察試料へのイオン入射の遮蔽を担う機構)の2つにより構成される。これにより短時間で正確なイオンビーム照準調整の手順を確立した。実際、Si(111)-7×7表面への5keV-Pイオンビーム照射過程の連続STM像の取得を、ほぼ100%の成功率にまで改善し(従来の20-30倍)、水素終端表面における観察技術に関する準備を整えることができたといえる。
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