研究概要 |
本年度の実積として、昨年度にへルシンキで行った資料調査の分析を基に「<研究ノート>フィンランドの国家形成とイレイデンティズム-ナショナリズムの変容との関連に関する覚え書き-」を執筆し、『北欧史研究』24号(バルト=スカンディナヴィヲ研究会)に掲載された。また、資料調査と同時に行った歴史学者ヤルマリ・ヤーッコラの遺族リリアン・ティムグレン=オッテリン氏へのインタビューの記録を「"A memoir of Finnish historianJalmari Jaakkola.(1885-1964):An interview with his daughterLilian Timgren-Ottelin and an examination of undisclosed documents"」という題名でCIIS Bulletin(Institute of International and Cultural Studis,Tsuda College,)に発表した。 昨年度に収集した資料を分析した結果、第二次世界大戦以降、フィンランドはソ連に対する現実的な対応を迫られ「あらゆる方向に窓を開け放つ」ことを余儀なくされたが、カレワラ研究もまたその例外ではなく、政治的イデオロギーとして機能していたカレワラ研究は戦後になると一掃されるが、今度はフィンランド固有の民族文化という従来のカレワラ解釈に加えて、世界共通の文化遺産という主張がなされ、『カレワラ』自体の普遍性を強調する動きが見られた。その動きの中心にいた人物が民俗学者マルッティ・ハーヴィオであり、彼のカレワラ研究の変遷と政治の関係を考察することで、カレワラとナショナル・アイデンティティとの関係は変容しつつも、戦後も続いていくことが明らかになった。この研究の成果の一部は、現在執筆中の論文「フィランドにおける国家形成とカレワラ神話の境域(仮題)」に所収される予定である。
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