研究概要 |
本研究は、啓蒙期イングランドにおける女性著述家たちの文筆活動を対象として、啓蒙という過程を女性がいかに経験したのかを明らかにすることを目的とする。最終年にあたる本年度は、大きく分けて(1)メアリ・ウルストンクラフトの思想的射程の確認、(2)ジェンダーの視点による18世紀啓蒙言説の分析、(3)ジェイン・ウエストについての実証研究、という三つの作業を行った。以下、それぞれの概要を述べる。 (1)啓蒙期の代表的な女性著述家、メアリ・ウルストンクラフト(1759-1797)のフェミニズム思想の理論的・系譜的な広がりを確認した。その成果は、「メアリ・ウルストンクラフトと女性の人権」(辻村みよ子編『ジェンダーの基礎理論と法』東北大学出版会)および「フェミニズム」(日本イギリス哲学会編『イギリス哲学・思想事典』研究社)に収録された。 (2)イングランド啓蒙の多元性をジェンダーの観点から明らかにするため、アディソン、マンデヴィル、チェスタフィールド、シャフツベリ、バラ、ウィルクスらの著作のなかで「男らしさ」や「女らしさ」にどのような意味づけがなされているのかを分析した。その成果は、「18世紀イングランドにおける啓蒙の多元性-ジェンダーの視点から」(『青山学院女子短期大学紀要』第61輯)にまとめた。 (3)8月にイギリスで史料調査を行い、保守的な立場から小説や政治論を発表したジェイン・ウェスト(1758-1852)についての実証的研究を進めた。ボードリアン図書館では、ジェイン・ウェストがトマス・パーシー(Thomas Percy,1729-1811)とかわした100通ほどの書簡を読み、彼女がほかの女性著述家たちとの関係や比較のなかでどのように自己の立場を提示しようとしていたのかが明らかとなった。この調査の成果は別途発表を予定している。
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