研究概要 |
昨年度は,環境評価理論の一つである旅行費用法に着目し,主に,環境質に対する相対評価型選好を仮定し,参照点依存型選好を仮定した厚生測度を定義,定性分析および数値シミュレーションにより,参照点が便益値に与える影響および実証モデルとしての利用可能性について検討した.それらの知見として,参照点依存型選好を仮定した場合,通常の便益(等価変分,補償変分,消費者余剰)が相対評価型選好の特殊ケースとして定義されること,また,参照点(相対評価の値)の影響によって,レクリエーション・サイトの環境改善事業を行った場合でも,相対評価がゼロとなり,プロジェクトの便益が発生しない可能性が指摘された. これらの知見を踏まえ,本年度は,研究課題における相対評価型選好を考慮した便益評価に関する実証研究を中心に研究を進めた.調査対象地としては,奈良県内の八箇所への観光活動,宮城県の海水浴場を取り上げた.これは,どのようなレクリエーション活動において,相対評価の影響が確認されるかが不明であったため,自然環境に対するレクリエーション活動および通常の観光活動の二つを取り上げた.なお,奈良県の観光活動を対象とした調査では,代表的な環境指標を取り上げることができないことから,回答者には,訪問した観光地に対する10段階評価を行ってもらい,環境質の代理変数とし,環境質の水準および相対評価のの双方もしくはどちらが需要関数に影響を与えるかについて分析した.その結果,環境質の水準および相対評価の双方が影響を与える観光地,環境質の水準のみが影響を与える観光地,相対評価のみが影響を与える観光地,どちらも影響を与えない観光地の四種類があることが分かった.このことにより,観光地によって,観光地の改善を行えば,観光客が増加する地域と,他の観光地よりも,よい印象を与える改善をしなければ,観光客数が増加しない観光地があることが示唆された.
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