研究概要 |
本研究は,算数、数学学習において「学習者は自らの経験を参照したり,知っているものになぞらえたりして図形、空間を認識する」という立場に立ち,この認識の枠組み(=学習者の主観的な知識体系)を理論的実践的に明らかにすることを目的とする。平成19年度は,一連の授業を通して生徒が図形、空間についての知識を構成する過程を記述することに関心があり,このことは前年度において,「対象化」に着目することで,結果的に構成された素朴な知識体系を記述しようとした試みに引き続くものである。 数学という学問、教科を特徴づけているものの1つに「証明」がある。証明が厳密性や一般性を含んだ特殊な手続きであると同時に,その目的の1つが他者を説得することにあるならば,授業のなかで生徒がみせる素朴な正当化、理由付けの方法に焦点を当てることは,授業改善の視点からみて意義のあることである。この問題意識のもとで,一連の中学校数学の授業観察から,その方法として次の5点を指摘した:(1)効率性,簡潔性(2)再現可能性(3)例示(4)視覚化(5)類似性。そして,図形、空間が考察対象である場合,これらの方法を支える見方には知覚的な見方と概念的な見方とがある。1時間の授業のなかにも数時間にわたる授業においても,「対象化」とあわせて,これらの方法によって生徒は自らの知識を進化、成長させていく。以上の帰結は,主として授業のなかでの生徒個人の振る舞いから得られたのであるが,学級集団が何らかの知識を共有していく過程においても多かれ少なかれ影響を及ぼしていることも同時に示唆された。正当化、理由付けの成否は他者の納得の程度によるのであり,もし上記の方法によって自らの考えが正当化され得ないならば,それが後の授業における討議の対象として据えられることになる。このときの教師の役割は,討議の規範と方向性を設定することにある。
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