研究概要 |
社会不安者は,対人場面において震えや発汗といった生理的反応が他者に気づかれ,否定的に評価されることを恐れている。ビデオフィードバックは,社会不安者が対人場面で振る舞っているところを録画したビデオを見せ,自分が思っているほど生理的反応が他者に見えていないことに気づかせることを目的とした認知行動療法の新たな治療技法である。ビデオフィードバックが生理的反応に対する認知の歪みを修正することは明らかにされているが,不安反応に対する効果が小さいという先行研究の知見に基づき,ビデオフィードバックに他者からのフィードバックを追加することが提唱されている。本研究の目的は,ビデオフィードバックに他者からのフィードバックを追加することによって,社会不安者の認知の歪みや不安反応に対する効果が増大するかどうかを実験的に検討することであった。交付申請書に記載した通り,社会不安の強い大学生61名を対象として実験を行った。その結果,ビデオフィードバックと他者からのフィードバックを組み合わせた群は,ビデオフィードバックを単独で行った群,他者からのフィードバックを単独で行った群,フィードバックを行わない統制群に比べて認知の歪みを修正することが明らかにされた。不安反応に関しては,いずれの群においても不安が減弱し,介入群と統制群の間に有意差はみられなかった。本研究の結果,社会不安者に対する治療を行う際には,ビデオフィードバックとともに他者からのフィードバックを組み合わせることによって認知の歪みに対する効果が増大することが示された。 また,社会不安障害患者を対象とし,ビデオフィードバックと他者からのフィードバックを治療技法として含む集団認知行動療法の効果を検討した。その結果,認知の歪みと不安が改善される患者がいる一方で,社会不安障害に他の精神疾患を合併している患者には治療効果がみられないことが明らかにされた。
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