研究概要 |
ヒトは日常空間に発生する狭い空間,例えば混雑した駅のホームに発生する隙間を,安全に,他者や障害物と接触することなく通り抜けることができる.たとえ手に荷物を持つことで,通り抜けのために必要な空間が荷物の分だけ広くなったとしても,通り抜ける瞬間の回避動作を微調整することで,やはり安全に通り抜けができる.本研究では,荷物を持って安全に通り抜けるために必要な条件を検証した.8名の若年健常者を対象とした実験では,横長の平行棒を両手に把持してもらい,狭いドア型の隙間を通り抜けてもらった.平行棒の長さを3条件設定し,肩幅の1.5倍および2.5倍広く設定した場合(もう1条件は肩幅より狭いコントロール)の影響を検討した.さらに平行棒を把持する方法として,両端を持つ条件と中心部を持つ条件を設定し,固有受容感覚情報として手先から入力される平行棒の情報の有用性について検証した.通過幅は3条件設定し,棒の長さと通過幅の相対関係が条件間で一定になるように操作した.その結果,棒の長さが肩幅の2.5倍の場合にドアとの頻繁な接触が見られ,接触がおこった全試行の約75%をしめた.一方,平行棒の把持条件は接触回数には影響を与えなかった.次にドア通過時の肩の回旋角度を比較検討した結果,通過幅や棒の長さに合わせて回旋角度を調節していることがわかった.また棒の長さが肩幅の2.5倍で,かつ,棒の中心部を把持した条件では,棒の先端をドアに接触させないために,ドアに到達する前の段階で大きく肩を回旋し,体幹がドアを通過する際には回旋を戻す傾向が見られた.この傾向は,棒の両端を持つ条件では見られなかった.以上の結果,平行棒の長さや把持の仕方に合わせて柔軟な回避動作が実現できるものの,平行棒が非常に長い場合,棒の把持方法に関わらず,障害物との接触の有無が正確に知覚できないことがわかった.
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