研究概要 |
今年度は、組織と戦略との相互化について,多角化企業の本社部門と事業部門の相互依存関係という観点から,多角化企業のかつての「コア事業部」で,現在は「非コア事業部」となっている事業部が,業績不振にも関わらず事業戦略を転換しないメカニズムを考察した. 具体的には,日本の代表的な重工業メーカーを事例として,以下のような結論を導出した.多角化企業におけるかっての「コア事業部」で,現在は「非コア事業部」となっている事業部が,業績不振にもかかわらず戦略を転換しないのは,事業の多角化の進展と共に当該事業部が「非コア事業部」化するにつれて,まず(1)全社側の問題として,i)「非コア事業部」に対する本社トップの関心や理解が低下し,設備投資が抑制され,大胆な戦略転換の発想が生じにくくなると同時に,ii)本社トップの関心低下によって事業部長の内部昇格制度が維持されるため,事業部の価値観が継承されやすくなる.他方(2)事業部側の問題として,「非コア事業部」化によって「範囲の経済」の恩恵の影響をより受けやすくなるため,事業部内に事業存亡の危機感が醸成されにくくなる.そして,このような(1)と(2)の2つの経路が合成された結果,「非コア事業部」の価値観が維持されることとなり,業績不振を招いている事業戦略が転換されないのである. この調査結果より,「コア」事業部との間に「範囲の経済」が存在している「非コア」事業部の業績不振を立て直すためには,「非コア」事業部の自主再建に委ねるのではなく,全社トップの「非コア」事業部への積極的関与が必要になる,ということを示唆した. なおこの調査結果は,平成19年度に発行された近畿大学経営学部の研究紀要と,日本経営学会で発表された.
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