研究概要 |
本研究では,堆積物に保存された浮遊性微細藻類を含む単細胞真核生物の化石DNAの解析法の確立を目的とし,古海洋環境変動に伴う水塊構造の変化と遺伝的集団の分化の関係を時系列的に追跡することを目標とする.これまで単細胞真核生物の化石DNA解析例は多くなく,1万5千年前後まで遡る程度である.下北沖の海底は溶存酸素濃度が低く有機物の分解が遅いことから,DNAも分解を免れて堆積物中に保存されている可能性が高い. 解析には,ちきゅうCKO5-04およびCKO6-06試験掘削で採取された堆積物柱状試料を用いた.本年度の解析では,それぞれのコアから計44層準の試料からDNAを抽出し,真核生物ユニバーサルおよび珪藻・ハプト藻類特異的なプライマーを用いてPCRを行い,SSU rDNAおよび葉緑体DNAを増幅した.増幅したDNA断片はクローン解析を行い,1試料から少なくとも10クローンの塩基配列を決定し,真核生物DNAの種類を明らかにするとともに,どの深度まで保存されているのかを明らかにした。 抽出法の検討の結果から,堆積物内のDNAは,休眠胞子の状態で保存されている可能性が高いことが示唆された.堆積物からDNAを抽出する際には,緩やかな破砕もしくは,破砕の前処理として懸濁させた後,その上清を回収し抽出を行うことが必要である.また,分子系統解析の結果,表層より約45m(コア5,セクション4)まで,主に珪藻を含むDNAが存在し,約5万年までのDNAを得ることができた・コア2以深ではChaetoceros socialis(AY485446)に近縁な珪藻を主とするDNAクローンが見いだされるが,少なくとも4つの遺伝型が存在している可能性が高いことが明らかになった.層準ごとに水塊の違いといった過去の海洋環境に対応するChaetoceros属の異なる個体群が存在している可能性が高い.
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