研究概要 |
本研究は、申請者らが独自に開発した"高速アザ電子環状反応"による修飾法を用い、生体分子アミノ基選択的な標識化法を新たに開発する。次いでこれを用いて蛍光および放射線標識による生体内イメージングを実施し、新たな生体内現象を明らかにすることを目的としている。これまでに放射性金属配位子DOTA(1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1,4,7,10-tetraacetic acid)を持つ共役エステルアルデヒドプローブを新たにデザインし、リジン残基との超高速電子環状反応に基づいて、微量生体高分子の放射線標識化の開発とPETイメージングへの応用を行った。Stilleカップリングにより効率的に合成したプローブを用いて、1)ペプチドとしてソマトスタチンを、2)タンパク質として、ヒト血清アルブミン(HSA)や糖タンパク質であるオロソムコイドを、さらには3)抗体としてanti-GFP抗体の標識化を行った結果、いずれの場合においても室温・低濃度(10-6M)の条件下、10分以内での標識化に成功した。さらに得られたソマトスタチン標識体に対して放射性金属である68Gaを導入し、ラットやラビットにおけるPETイメージングを達成した。一方、本プローブに対してさらに標的生体分子と相互作用する低分子リガンドをコンジュゲートさせ、標的分子の特定のリジン残基のみの蛍光修飾に成功した。すなわち、HSAとこれと相互作用するリガンドとしてクマリン誘導体を用いて検討したところ、HASに存在する59個のリジン残基のうち、リガンド認識部近傍に存在する1つのリジン残基のみを選択的に蛍光標識化することに成功した。さらに相互作用に用いたクマリン低分子リガンドは、リジン残基修飾の後、環化生成物のピリジニウムイオンへの自然酸化に伴って、中性条件下のもと自動的に修飾分子から加水分解されることを見出した。以上の結果は、生理的条件下のもと蛍光部位のみの標識化が迅速かつ簡便に実現できることを示しており、今後はこれらの結果を基に糖鎖のPETおよび蛍光イメージングを中心に検討する予定である。
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