研究概要 |
1970年代に欧米先進国を中心として始まったヒトと動物の関係に関する研究によって、動物が人に与える精神的、身体的な効果について多くの報告がされ、犬や猫、馬、イルカなどを用いた動物介在療法(Animal-Assisted Therapy, AAT)・活動(Animal-Assisted Activities, AAA)が注目されている。ヒトと動物の関係に関する国際組織(International Association of Human-Animal Interaction Organizations, IAHAIO)のプラハ宣言(1998年)では、AAT/AAAに用いる動物は、犬、猫、馬など家畜に限定している。 一方、1978年、Betsy A. Smith女史によって始められたイルカを用いたAAT/AAAは、その効果が犬や馬を用いた場合よりはるかに大きいとされ、日本を含め各国で実施されつつある。実際、引きこもり気味な自閉症を対象とした予備的な調査によれば、イルカへの興味は犬や馬とは比べものにならないほど大きい。しかし、野生動物であるイルカを人工環境下で飼育管理することは容易でなく、またAAT/AAAにおける効果も科学的に証明されているわけではない。かかる観点から、本研究では、IAHAIOの認可のもと、1)イルカの適切な飼育管理、ならびに2)イルカを用いた介在療法・活動の効果について検討した。このとき、前者では、発する鳴音によってストレスなど自らの内的状態を知らせていることが判明し、また、後者では、2つの鳴音(物体検知のためのクリックス(Clicks)と個体識別のためのホイッスル(Whistle))のいずれも、子どもたちの心身の発達に良い影響を与えることが分かった。これらの新発見は、イルカへの生物学的興味のみならず、イルカ介在療法に大きな可能性を示唆するものである。
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