研究概要 |
本研究は共鳴トンネルダイオード(Resonant Tunneling Diode, RTD)を周期装荷した伝送線路における非定常的波動伝播において、パルス幅が極端に圧縮される現象の発見に端を発している。この2年においては、研究成果は、J. Appl. Phys.をはじめとする学術誌に採録され、RTDの研究者から打診を受けるなど,研究活動の広がりを予感させる段階にまで至ってきた。この過程では、極短電気パルス生成に加えて、興味深い波動の往復伝播を新たに見出すに至った。RTD線路にステップ状電気パルスが入力されると、RTDのピーク電圧を境にして、指数関数および正弦関数モードの波動がそれぞれ誘起される。RTDのコンダクタンスと配線抵抗によって前進パルス・エッジは減衰し、パルス振幅に依存して定まる距離を伝播すると消失する。この点において、新たにすべての電圧領域で指数関数モードが誘起される。この新しく生じた伝播モードは電圧レベルの大きい領域に向かってしか伝播しないという性質をもつため、パルス・エッジは逆進をはじめる。すなわち、RTD線路にステップ状パルスが入力されると、線路途上でパルス・エッジが折り返して入力端に回帰するという現象が生ずる。入力端での反射制御を適正に行うと、この往復伝播は定常的に生ずることになり、従来類例のない発振機構を提供することができる。波動伝播によるため、動作帯域が広範にわたるという性質、そして発振周波数がパルス振幅に強く依存するという性質は、RTDの高速性とあいまって、ミリ波帯あるいはテラヘルツ帯にまでいたる超広帯域電圧制御発振器という無類の高機能回路の実現への道を新たに切り開くこととなった。研究期間内には、数理的検証の実際的応用を念頭において,具体的な線路構造を与えての検証を進めている。このためにFDTD法に能動・非線形素子を導入する新しい手法を考案した。通常、能動・非線形素子の表現にはニュートン法を代表とする求解ルーチンを時間発展させるごとに使用する必要があり、計算時間のボトルネックになっていた。区分的線形関数で素子の電流-電圧特性を近似する手法を開発し、精度よく短時間に解析が進むように改善された。これを用いて、RTD線路のFDTD解析によって極短パルス生成ならびに往復伝播のそれぞれを表現することに成功した。
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