本研究は日本の前近代における巡礼および巡礼霊場の成立と変容の過程について、空間論的に分析するものである。本年度は、巡礼が信仰の対象から遊楽的な存在へと移行していく劃期としての中近世移行期の問題について、善峯寺所蔵の参詣曼茶羅を素材として分析を行った。前年度は曼茶羅に描写される事物の基礎的な分析を行っていたが、本年度はさらに京都市歴史資料館所蔵の善峯寺文書の読み込みを行い、これをもとに、西国巡礼20番札所である善峯寺の空間を、同寺をめぐる重層的な社会関係のもとに描き出すことを試みた。この成果は高橋慎一朗・千葉敏之編により刊行計画中の『中世都市を考える(仮)』(東京大学出版会)のうち、「善峯寺参詣曼茶羅から見る寺院と都市」として公表する予定である。この論考により、従来は図像の比定にとどまっていた参詣曼茶羅分析を社会・空間論の次元に深め得たと考えている。また本年度はこのほか、都市規模の巡礼として最も古いものとみられる洛陽33カ所観音巡礼について、その成立と変遷について分析を行った。これについては引き続き研究を進め、論文としての公表を目指したい。また前年度までの成果のうち、今年度中に公刊された成果として、Asian Cultural Studies誌の"Chichibu's Kannon Temples Before and After the Meiji Restoration"、吉川弘文館の『身分的周縁と近世社会6 寺社をささえる人びと』 (共著、「札所」執筆)がある。
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