研究概要 |
昨年度,マルテンサイト組織を出発組織とした炭素鋼に温間圧延・焼鈍を施すことによって,超微細粒フェライト組織にナノサイズのセメンタイトが分散した複相超微細粒鋼を作製し,高い引張強度と良い延性を示した。しかしこのプロセスでは非常に高い圧延荷重を要し(特に高炭素鋼),試料サイズが限られてしまう。本年度ではマルテンサイトとフェライトの複相組織を出発組織とした低炭素鋼(0.1%C)を91%冷間圧延・焼鈍を施し,複相超微細粒鋼の作製を試みた。出発組織に軟質なフェライト相が存在するため圧延荷重は低減し,良好な冷間圧延か可能であった。この試料に600℃程度の焼鈍を施すと,微細な炭化物が分散した結晶粒1μm以下の超微細粒フェライト組織が形成した。この材料は最大1GPaと高い強度を示し,同時に良好な延性を示した。また,自動車用高強度鋼板で要求される静動差(高速変形と通常の低速変形における引張強度の差)を評価するため,種々のひずみ速度(10^<-2>〜10^3)で引張試験を行った。その結果,作製した超微細粒鋼は約200MPaの静動差を示し,同程度の強度を有する汎用鋼板(100MPa以下)より高い値を示した。また,これらの試料の組織解析を行った結果,フェライト相とマルテンサイト相の複相組織を圧延すると,軟質なフェライト相に変形が局在化することが明らかとなった。したがって,出発組織を複相化することにより,軟質相であるフェライト相では付加したひずみ以上の結晶粒微細化が進行することがわかった。
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