研究概要 |
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)積層板は優れた比強度・比剛性や耐疲労特性を有するが,比較的小さな衝撃でも容易に層間はく離が発生し,強度が著しく低下することが問題である.稼動中もしくは保守点検中に短時間かつ低コストで実施可能な損傷モニタリング手法の開発が課題となっている. これまでに電位差法を用いたはく離同定手法を提案し,その有効性を積層構成が単純な直交積層梁型試験片を用いて実証した.また,昨年度の研究において,より実機構造に近い擬似等方CFRP積層板に生じるはく離についても同定可能であることを示した.はく離によって生じる積層板の電位差変化は,はく離の面内位置のみでなく,その層間の位置によっても大きく異なることを明らかとした.これより,本年度では単一層間に生じたはく離は面内位置だけではなく,どの層間に生じたかについても同定可能であり,この結果は補修作業時にも役立つことを示した.しかしながら,擬似等方積層板に生じるはく離は多層にわたることが多く,はく離の層間位置によって電位差変化が大きく異なることから,複数層間に同時にはく離が生じた場合には同定することが困難であることが明らかとなった. そこで,積層板表面保護の観点から,CFRP積層板の表裏面に積層される炭素繊維織物材(CF織物材)をセンサーとして利用する新しい方法を更に提案した.積層板成形時に繊維と母材の線膨張係数の差異により生じた残留応力が,はく離発生に伴い解放され,積層板表面に局所的なひずみ変化を生じさせることを利用する.局所的な積層板表面ひずみ変化を,CF織物材自身のピエゾ抵抗効果を利用し,電位差法によって測定することによりはく離検出を行う.有限要素法によるはく離同定シミュレーションを実施し,その結果,本提案手法によってはく離位置の同定が可能であることを示した.
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