研究概要 |
「細胞の分裂速度が非常に遅い」という組織幹細胞に共通した性質を持つ,いわゆるSlow-Cycling Cell(SCC)が腎臓には存在する。我々はこの細胞が障害後の尿細管再生においてごく初期から分裂を開始し,増殖を繰り返して最終的には成熟した尿細管上皮へ分化するという,腎幹細胞的な役割を果たす細胞集団であることを報告した(JAm Soc Nephrol14:3138-3146,2003)。このSCC特異的に発現するマーカーを調べるため,FACSを用いてSCCを選択的に分離した。その後,RNAを抽出しSuperarrayを用いて,SCCが特異的に発現しているマーカーをスクリーニングした。同時に,ラット正常腎組織を用いて種々の未分化な幹細胞マーカーの免疫組織染色を行った。その結果,Oct4と呼ばれる遺伝子の発現が腎尿細管に確認され,SCCと同様の局在パターンを示した。これは別のグループが同定した尿細管に存在するOct4陽性腎幹細胞(JAm Soc Nephrol17:3028-40,2006)の内容に矛盾しない所見であった。今後,障害後の尿細管再生過程におけるOct陽性細胞の動態を把握するとともに,in situ hybridizationと免疫染色を同時に行い,Oct4陽性細胞とSCC(BrdU陽性細胞)が全く同一の細胞集団かどうか検証する。これにより腎幹細胞活性化因子を探索するストラテジーがより具体的になると思われる。
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