研究概要 |
本研究では、呼吸器系感染症の主要な起因菌の一種である肺炎球菌の病原性発現メカニズムの解明を目指した。その中で、我々はサルモネラ属細菌をはじめとしていくつかの細菌で病原性との関わりが示唆されている、AAA+プロテアーゼに着目した。本研究では、肺炎球菌のAAA+プロテアーゼと肺炎球菌病原性との関連を明らかにしようとした。 肺炎球菌のゲノムデーターベース(TIGR4)からAAA+ファミリー遺伝子と推定されているORFのうちclpC, clpE, clpL, clpX, ftsHとそのプロテアーゼ遺伝子であるclpPと考えられているORFをTIGR4株より欠損させたようとした。その結果、clpC, clpE, clpL, ftsH, clpP欠損株を作製することに成功した。中でも、ftsHは大腸菌をはじめとするグラム陰性細菌では必須であることが報告されている。肺炎球菌では、欠損させることは可能であったものの野性株と比べて生育速度は低下していた。特に、対数増殖期から定常期にかけて顕著な生育阻害が見られた。このことから、ftsH遺伝子は肺炎球菌においては必須ではないものの、増殖過程において重要な働きがある可能性が示唆された。他の欠損株においては、37℃培養時で野性株より若干生育が悪くなる程度であった。 次に、これらの遺伝子と病原性との関わりを調べるため、肺炎球菌の主要な毒素蛋白質であるPneumolysinの活性測定系を構築し、評価を行った。その結果、clpE欠損株,においては生菌数に関わらず、野性株と比べて活性が1.5倍程度低下していた。 これまで、国内においては肺炎球菌の遺伝子組み換え技術、分子生物学に基づいた病原性研究はほとんどなされておらず、世界から大きく遅れをとっている。本研究において、遺伝子欠損株の有用な作製技術、毒素蛋白質の活性評価系を構築した事で、国内においても肺炎球菌の分子生物学実験および、病原性評価を行える研究の足がかりになることが期待される。
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