研究概要 |
表在性膀胱癌の治療としては経尿道的内視鏡切除が第一選択だが,浸潤性の膀胱癌に対しては内視鏡切除の後に膀胱全摘除や抗がん剤動脈内注入,放射線治療などの集学的治療が行なわれる。膀胱癌の治療法選択に最も難渋するのが,内視鏡治療の結果表在癌と浸潤癌の境界領域である異型度G3,局所深達度pT1と診断された症例である。膀胱温存は患者側の切なる願いであるが,保存的治療に固執することでかえって癌の進行をきたすことも稀ではない。われわれはMMPというプロテアーゼの活性をFIZ(film in situ zymography)という手法を用いて測定することで,G3pT1症例の中でも再発,転移のリスクが高く膀胱全摘除を推奨すべき症例と,膀胱温存治療が可能な症例の鑑別が可能となるのではないかと考えた。MMPs(matrix metalloproteinases)は亜鉛イオンを活性部位に持つプロテアーゼの一群であり,現在10数種類が知られている。その中でMMP-2,MMP-9は基底膜のIV型コラーゲン分解に関与するゼラチナーゼであり,血管新生の際の基底膜分解などを通じて癌の進展に関与していることが明らかになっている。我々はFIZ(film in Situ zymography)という手法を用いて,膀胱癌の切除標本におけるゼラチナーゼ活性の強さが,癌の進達度,異型度,転移の有無,生命予後などと有意な相関を持つことを示した。 G3pT1症例においては,本研究期間中にFIZの明らかな有用性を示す成果は得られなかったが,今後継続して切除標本におけるゼラチナーゼ活性の測定が,G3pT1膀胱癌の治療法を選択する上でのマーカーとなりうるかどうか研究していく予定である。
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