研究概要 |
ボツリヌス毒素の前立腺注入療法は注目を浴びているが,基礎的研究は十分に行われておらず,作用機序も不明である。本研究ではボツリヌス毒素の前立腺への作用を検討することで、その作用メカニズムを解明することを目的とした。 現在臨床の場で使用されているA型ボツリヌス毒素であるBotoxTM(19S毒素)は、分子量90万の高分子複合蛋白質のため抗体が誘導され、その抗体のため効果の持続性が限られる可能性が指摘されている。岡山大学で開発した活性化した毒素成分を有する分子量15万の低分子ボツリヌスA型神経毒素(改良A型毒素)は、BotoxTMに比し、速やかな効果発現と抗神経毒素抗体を誘導しにくい効果を期待できる。 今回我々は、前立腺に対する効果を改良A型神経毒素(7S毒素)と19S毒素とで比較し検討した。正常前立腺細胞(上皮細胞と間質細胞)を24well内で培養した後、7S毒素、19S毒素を添加し、24時間後、TUNEL染色にてアポトーシスの誘導を観察した。培養細胞における検討で、上皮細胞では7S,19S,コントロール群においてそれぞれ9.0、0.5、2.0%においてアポトーシスを認め、7S毒素でのみ有意にアポトーシスの誘導が確認された。 また,In vivoでは,成熟SDラットの前立腺に7S毒素、19S毒素ならびに生食を注入し,1週,4週後に前立腺重量の測定,HE染色による組織学的検討,TUNEL染色によるアポトーシス誘導能を検討した。7S毒素は19S毒素に比し,早期に有意差をもって前立腺重量を減少させた。また,TUNEL染色で,7S毒素注入後1週で前立腺上皮,間質にアポトーシスを認め,4週で前立腺上皮は全体的に萎縮しており,19S毒素に比し効果発現は早く認められた。 以上の結果より,改良A型ボツリヌス神経毒素(7S毒素)はBOTOXTM(19S毒素)と比較し作用の発現が早く効果も強い可能性が示唆された。
|