本研究の目的は、歯周病原性細菌であるTreponema denticola表層に存在するタンパク分解酵素であるdentilisinによる歯周炎局所における免疫応答への影響を解析することである。T.denticolaは、様々な病原性因子をもつが、特に本菌の表層に存在するタンパク分解酵素は、主要な病原性因子であると考えられている。本菌の表層に存在する主要なタンパク分解酵素には、キモトリプシン様酵素(dentilisin)とトリプシン様酵素が報告されている。菌体破砕後、界面活性剤にて菌体成分を可溶化後、Q-sepharoseカラムにてこれらの酵素を分離した。その後、等電点電気泳動とDEAE-5PWカラムなどを用いて、それぞれの酵素を精製した。この2つのタンパク分解酵素は、イオン交換クロマトグラフィーの結果から溶出ピークが近く、また等電点電気泳動の結果から等電点についても近似していることが分かった。今後、得られた2種類のタンパク分解酵素を用いて、免疫担当細胞に及ぼす影響を解析する。また、T.denticolaによるマウス骨芽細胞の細胞内カルシウムイオン流入に及ぼす影響を実験した。T.denticolaの菌体破砕後の可溶化分画を細胞に作用させ、細胞内蛍光プローブと共焦点レーザー顕微鏡にてカルシウムイオン流入を測定した。この結果、T.denticolaは細胞内へのカルシウムイオン流入をわずかながら阻害することが分かった。また、この阻害効果は菌体表層タンパクによることが強く示唆された。次年度では、この抑制効果を誘導する菌体表層物を解析するために、いくつかの種類の表層構造欠損させたT.denticola欠損株を用いて実験し、カルシウムイオン流入に抑制的な影響を及ぼす病原性因子の特定を行う。
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