研究概要 |
マウス白血病ウイルス(WLV)の中には、レトロウイルス共通の「受容体結合→細胞侵入」という感染経路を取らないウイルスが存在する。このウイルスは高病原性MLV(P-MLV)であり、受容体へ結合した後、外来性の可溶性エンベロープ表面領域(soSU)が存在して初めて感染可能である。この感染経路はレトロウイルスの"non-classical侵入経路"と呼ばれ、P-MLVの他にもT細胞指向性猫白血病ウイルス(FeLV-T)がこの経路を使用する。こうした背景からnon-classical経路と病原性発現との相関性が示唆されて来たが、決定的な証拠は得られていない。本研究では未だ不明な分子メカニズムを解明することによって、P-MLVの病原性発現の決め手にアプローチすることが目的である。 本研究では、「P-MLVはエンベロープ(Env)の活性化に必須であるカルシウムイオン(Ca^<2+>)の保持能力を欠損しており、そこへsoSUが近付くことでCa^<2+>を提供し、Envの活性化が可能となる」という仮説について検討を行う。 本年度は、レトロウイルス粒子作製系の立ち上げと、組換えsoSUタンパクの作製を行った。同種指向性MLV(E-MLV)のEnvは、1アミノ酸の置換、欠損により、non-classical経路を取らせることができるため、E-MLVのEnvをベースとして、41番目のヒスチジンを欠損(delH)、あるいはアラニンへ置換(41A)した変異Env発現プラスミドを構築した。次に変異ウイルスの感染rescue、Ca^<2+>保持能力の検討に使用する精製soSUを大量に得るため、soSU発現組換バキュロウイルスを作製した。delH EnvのsoSUは、上清中への分泌が見られず、可溶性蛋白質として回収できなかったが、その他(WT,41A)のEnvについてsoSUを精製蛋白質として得ることができた。 これらの材料を用いて、今後、予定通りにウイルスのrescue試験、Ca^<2+>保持能力試験を通して、高病原性MLVの"non-classical侵入経路"の分子メカニズムの解明を目指したい。
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