世界的な頭脳循環によって国際共同研究が活性化するなかで日本が国際競争力を維持し相手国の資源を取り込んでいくためには、多様なステークホルダーが参画する案件をリードし共同研究者や相手国関係省庁から必要な助力を引き出せる人材の育成が必須である。本研究では国際科学技術協力を牽引する人物となるためのキャリア展開について(1)学術論文の発表状況および競争的資金獲得状況と(2)キャリア展開の要となった人的ネットワークの形成状況を分析した。 先行研究から小さな科学技術外交案件が大規模国際科学技術協力に展開する過程における若手研究者の育成状況を分析した結果、若手研究者が日本側研究ネットワークの密接なサポートを受けつつ共著論文発表や競争的資金獲得を行うことで、プロジェクト期間終了後に機関間移動を伴う職位の上昇につながる例が多いことが示された。この傾向を確認するため、本研究では新興国の課題解決に取り組む研究開発枠組みで研究代表者を務める日本側研究者の経歴を調査した。その結果、ネットワークからの支援を受けつつ多様な経験を独自の研究として内部化するなかで総合力に優れるシニア研究者、ひいては大型国際共同研究をリードしうる人材として確立されていくと考えられた。これを定量的に示すため、論文共著情報から媒介中心性指標を用いた分析を試みた。同時に、各種国際人材交流プログラムを活用して実績を挙げたシニア研究者らへのインタビュー調査を行った結果、若手研究者のキャリア形成に関して意識的にサポートを行っている例は散見されるものの、多くのケースではまだ、研究環境の整備や研究協力者への協力依頼、論文発表のタイミングなどについて若手研究者の自発的な努力に任されている部分が多いことが示唆された。
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