<研究目的> 本研究は若者の主体形成を促す地域連携カリキュラムとしての主権者教育の構築に当たり、市民の政策決定過程への参加が先進的なデンマークの地方自治体のユースカウンシル(Youth Council : 以下YC)の活動に着目した。前年度の研究において、3つの事例の比較により、デンマーク第二の都市オーフス市のYCは学校と地域が連携するカリキュラムモデルとして最も可能性が示唆された。しかしその実態は不明であったため、本研究ではオーフス市内のYCの下位組織、上位組織、さらに教師とYCの連携構造や、そこで実現されるメンバーの政治的主体形成の過程を明らかにすることを目的とした。 <研究の方法> オーフス市は、4地域に区分される。区分された地区での各YCの下位組織の職員とメンバー、下位組織から代表として選出されたオーフス市全体のYCのメンバー、そして職員へのインタビューと、会議の参与観察を行った。データは、デンマークの政治学者Bangの「新しい政治的アイデンティティ」の概念と、北欧閣僚理事会が提示した「‘参加’の過程」を参照して分析された。 <本研究の成果> 本研究で明らかになったのは以下の3点である。(1)地方議会、行政、学校、若者団体の連携による、メンバーの勧誘や選挙への参加、YCの意見形成や議論の場、政策提言の実現の仕組みの組織化。(2)代表制の確保のため移民地区に独立した議席を設け、またYCの下位組織を設置することで、エリート主義的な参加ではなく、自由でアドホックな参加を受容。(3)参加に必要な情報を得るルートや大人の支援が多層的に存在。こうした活動は学校教育・社会教育の枠を超えた「民主主義の学校」とも言え、学校は、メンバーのリクルートや選挙、会議への参加のための学校欠席の承認、といった形でYCと協働していた。 オーフス市の事例からは、地方自治への参加と中等教育段階の学校をつなぐことにより、生徒が「実践し」「影響力を行使する」主権者教育の構築が示唆される。
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