研究課題
奨励研究
○研究目的 :メディア・エデュケーションにおいて先駆的な取り組みを続けるイギリスの中等国語科教育の文学の授業で、ごく一般的におこなわれている言語活動に、小説の冒頭部の映像化がある。学習者の表現のなかに、精読の理解をみるという試みである。我が国でもメディア・リテラシー研究は活発におこなわれてきたが、高等学校段階での授業構想および評価の枠組みについてはまだ検討の余地がある。この問題意識にもとづき、文学の授業における映画を活用したマルチモーダル・リテラシー育成プログラムの課題と可能性を追求する。具体的には、活字で理解したものを映像化して表すという言語活動の成果物に対する評価の指針づくりと、それらをふまえた授業開発を本研究の目的とする。○研究方法 :学習者のモデル動画および作文の考察を通して、動画制作が小説の読み深めにどのように寄与したか、検証する。単元「小説『舞姫』を読む」の学習指導過程は、班単位の音読にはじまり、作文「私の一文」の執筆、絵コンテ・脚本の作成から撮影・編集と、映像制作体験を経た後に、プロの映像作品冒頭部を視聴し鑑賞文を書く活動をまとめにおく。○研究成果 :モデル動画三案の視聴、みずからの動画作成、そしてプロの映像表現の視聴には、どのような作用力があったか。学習者反応分析の結果、これらの学習過程が可能にしたのは、小説「舞姫」の語りおよび作家の創意へのアプローチであり、太田豊太郎批判に終始する従来の高等学校国語教室における「舞姫」読解を超える読みであった。冒頭部の精読のための動画の活用が効を奏した結果である。冒頭部の映像化は精読の理解を表現する機会となり、作文課題はみずからの読みをふりかえる省察の機会として機能した。指導者の評価は、これらの学習過程への学習者のメタ認知を問う点に重きを置いた。
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広島大学大学院教育学研究科紀要. 第二部, 文化教育開発関連領域
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