研究実績の概要 |
算数・数学教育においても, 数学的活動を通して学習者の主体的・対話的で深い学びを実現し, 数学的に考える資質・能力を育成することが一層求められるようになった。本研究では, そのことを踏まえ, 交流中の学習者間の関係が「教える-教えられる」を主とする教授型の関係から, 「考える-考える」を主とする探究型の関係へと質的に変容するような教材を開発し, その教材を用いた実践を通して, 教材が学習者の認知過程に与える影響を調査・分析し, 探究型交流活動を促進する教材に必要な要件を考察することを目的とした。 開発した「レシート問題」には, ①文字の運用に選択性をもたせたこと, ②発展的な解法にしたこと, ③予測の検証を行うタイプにしたこと, の三つの特性をもたせた。また, 以前の実践を踏まえ, 少人数交流の形態をスクランブル形式からグループ形式へと変更し, 各自が文字でおく数量をグループ内で話し合った後に個人追究へと進むようにすることで, 文字でおく数量が各グループ内で多様化するようにした。 教材の評価は, 実践直後の質問紙と自由記述による調査を基に行った。質問紙については, 調査結果を分散分析して意欲水準の変容を捉え, 自由記述の内容も踏まえて解釈することで, 学習者の認知過程を丁寧に考察するようにした。 その結果, 探究型交流活動を促進させるためには, 学習者が「おもしろさ」や「やりがい」を感じるような数学的な内容の「難しさ」をもっている教材が必要であり, それが, 所謂「適度抵抗」となって交流活動に対する意欲を維持していくような工夫が必要であることが示唆された。これは同時に, 形式的に対話型を取り入れたり, 過度な支援を行ったりする授業では, 逆に学習者の意欲を削ぐ可能性があることを示しており, 教材開発や授業展開には, 「どのように」という方法に偏ることなく, 「何について」という内容的側面からのアプローチが重要であることを示している。
|