ニホンスモモ‘貴陽’では高糖度(15~20度程度)の正常果だけでなく、糖度10度程度の低品質果実「味なし果」が同一樹体内で発生する。また、味なし果では正常果でみられる果面のネット状の模様が少ないことも特徴である。本研究では味なし果発生メカニズム解明のため‘貴陽’の葉の光合成速度と果実品質の関係について調査した。本学農学部附属地域フィールド科学教育研究センタービニルハウス内栽植のニホンスモモ‘貴陽’(12年生、Y字仕立て)を供試した。満開後10週にY字の片側全体を75%遮光ネットで被覆し、自然条件下の部分を無処理区、遮光条件下の部分を遮光区とした。各処理区内で果実を無作為に選び、その果実付近の新梢基部側1~3枚目までの葉を測定部位として、葉の光合成速度(満開後12週から16週まで隔週)と果実品質(満開後16週以降)を測定した。満開後12週から16週までの遮光区における葉の光合成速度は平均して無処理区の40%程度に減少した。満開から収穫までに要した日数は無処理区よりも遮光区で約1週早かった。成熟果の果面のネット発生率は、無処理区よりも遮光区で有意に低かった。TAに差はみられなかったものの、SSCは遮光区で有意に低かった。無処理区のSSCは10~25%の間で広く分布したが、遮光区のSSCは10%程度のものが多く、SSCの分布の様相は異なった。しかし、両処理区とも葉の光合成速度(満開後12週から16週の平均値)はSSCの値に関係なく分布し、相関は認められなかった。以上より、遮光条件下では葉の光合成速度が低下し、ほとんどの果実が低品質となったことから、味なし果の発生には光条件が影響していると考えられた。しかし、今回調査した新梢基部側1~3枚目の葉とその付近の果実間では光合成速度とSSCの相関関係は認められず、味なし果発生に影響する葉の位置関係はわからなかった。
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