研究実績の概要 |
プロトンポンプ阻害薬(PPI)は逆流性食道炎、胃潰瘍など消化管疾患治療薬として全世界的に汎用されているが、長期使用患者では鉄欠乏性貧血を引き起こすことが明らかにされた(Jameson R. Lam, et al. Gastroenterology, 2017)。ヘプシジンは肝臓で産生される重要な鉄制御因子であり、生体唯一の鉄排出輸送体フェロポルチン(FPN)の分解を促進して、消化管からの鉄吸収を調節している。ヘプシジンの過剰産生は十二指腸からの鉄吸収を抑制するため鉄欠乏性貧血の原因となることが知られている。申請者は、腎不全において、尿毒素が核内受容体アリルハイドロカーボン受容体(AhR)を介してヘプシジン産生を促進し貧血を引き起こすことを明らかにした(Hamano, et al. Nephrol Dial Transplant, 2017)。また、PPIのオメプラゾール(OME)がAhRのリガンドである(Shivanna B, et al. Toxicol Sci, 2015)ことが示されており、OMEがAhRを介したヘプシジン産生によって鉄代謝に影響して貧血を引き起こしている可能性があるも詳細は不明であった。本研究では、PPIがヘプシジンを介して鉄代謝機構を調節することを解明して、PPIによる鉄欠乏性貧血の発症機序を調べている。 大規模データベース(FDA・Adverse Event Reporting System : FAERS)を用いて、実臨床におけるPPI使用患者の鉄欠乏性貧血発症報告を調査することで、オメプラゾール(OME)を含むPPIが鉄欠乏性貧血のオッズ比を増加させることを示した。次に、培養肝細胞HepG2を用いてOMEがヘプシジン遺伝子発現を増加させること、ヘプシジンの増加にAhRが関与していることを明らかにした。In vivo実験では、マウスにOME経口投与することで肝臓ヘプシジン発現が増加、十二指腸FPNが減少することを確認した。これらの所見は、PPIがヘプシジン上方制御を介して十二指腸FPNの阻害を介して鉄吸収を抑制し、鉄欠乏症を引き起こすことを示している。
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