研究課題
奨励研究
漢方薬は古くから感染症の治療に使用されているが、抗感染症薬としての明確な科学的根拠を持っていない。そのため、漢方薬に抗感染症薬としての明確な科学的根拠を付与することができれば、感染症治療に新たな選択肢を与えることができ、既存の抗菌薬への耐性化を抑制することが期待できる。本研究では、現在使用されている漢方薬の中から抗感染症効果を有するものを網羅的にスクリーニングし、抗菌薬の作用を増強あるいは補助する働きを有する製剤を発見することを目的とした。皮膚疾患に使用されている漢方薬である当帰飲子は、皮膚の常在菌である表皮ブドウ球菌に対しては静菌的に、皮膚感染症の起炎菌である黄色ブドウ球菌に対しては殺菌的に作用した。したがって、当帰飲子は、皮膚感染巣の黄色ブドウ球菌を選択的に殺菌できる可能性が示された。さらに、当帰飲子は、強毒型の薬剤耐性菌として知られるUSA300 cloneの白血球破壊毒素(PVL)の産生量および遺伝子発現量を大きく減少させた。以上の成果は、当帰飲子が、黄色ブドウ球菌による皮膚感染症の補助薬となる可能性を示している。さらに、代表的な皮膚感染症である伝染性膿痂疹(トビヒ)患者から分離された黄色ブドウ球菌に対して、皮膚科領域で使用されている十味敗毒湯、越婢加朮湯、治頭瘡一方、升麻葛根湯、三物黄苓湯、排膿散及湯、茵蔯蒿湯の抗感染症効果について研究した。その結果、茵蔯蒿湯の効果が最も高く、0.5mg/mlで黄色ブドウ球菌の増殖を阻害した。さらに、試験した一部の漢方薬において、菌の増殖を阻害しない濃度でトビヒの原因毒素である表皮剥脱毒素の産生量を減少させる効果が認められた。特に、治頭瘡一方の効果が高く、毒素産生量を1/8に減少させた。以上の結果から、治頭瘡一方は、黄色ブドウ球菌によるトビヒの補助薬となる可能性が示された。
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PLOS ONE
巻: 14 号: 3 ページ: e0214470-e0214470
10.1371/journal.pone.0214470