研究課題
奨励研究
トラマドール(TRM)は、肝臓のCYP2D6により活性体であるO-脱メチルトラマドール(ODT)に代謝され、CYP2B6およびCYP3A4/5によりN-脱メチルトラマドール(NDT)に代謝される。さらに、ODTとNDTはN, O-脱ジメチルトラマドール(NODT)に代謝される。そこで、本研究ではがん患者におけるトラマドールとその脱メチル代謝物の血中動態に及ぼすCYP2D6、CYP2B6およびCYP3A5の遺伝子変異の影響を評価した。対象は浜松医科大学医学部附属病院において、がん性疼痛に対して経口TRMによる治療を行った70名の患者とした。経口TRMを開始して4日以上経過した朝の内服前における血中TRM、ODT、NDTおよびNODT濃度をLC-MS/MS法を用いて測定した。また、CYP2D6*2、*5、*10、*14、CYP2B6*6およびCYP3A5*3遺伝子型はPCR-RFLP法およびlong PCR法により判定し、上記以外を*1とした。CYP2D6については、*1/*1、*1/*2、*1/*5、*1/*10、*1/*14、*2/*2、*2/*5、*2/*10および*2/*14をnormal metabolizer(NM)群、*5/*10、*10/*10および*10/*14をintermediate metabolizer(IM)群、*5/*5、*5/*14および*14/*14をpoor metabolizer(PM)群として分類した。TRMの血中動態に及ぼすCYP遺伝子型の影響を評価したところ、CYP遺伝子型はCYP2D6*2(4.3%)、*5(5.7%)、*10(43.6%)、*14(5.9%)、NM(64.3%)、IM(34.3%)、PM(1.4%)、CYP2B6*6(22.9%)およびCYP3A5*3(72.9%)であり、CYP2D6遺伝子型の血中TRM濃度への影響は認められなかったが、血中ODT濃度とその代謝比(ODT/TRM)は、CYP2D6 IM+PM群でNM群より低かった(P=0.002、P=0.023)。対照的に、血中NDT濃度とその代謝比(NDT/TRM)は、CYP2D6 IM+PM群でNM群より高かった(P=0.001、P=0.001)。また、CYP2B6およびCYP3A5の遺伝子多型によるTRMの血中動態への影響は認められなかった。本研究結果より、CYP2D6遺伝子型は、TRM代謝経路の変化を介してODTとNDTの血中濃度に影響を及ぼすが、CYP2B6とCYP3A5遺伝子型は影響を及ぼさないことが明らかとなった。
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European Journal of Clinical Pharmacology
巻: 74 号: 11 ページ: 1461-1469
10.1007/s00228-018-2527-0