研究実績の概要 |
【研究目的】がん化学療法を施行した卵巣がん患者では, 静脈血栓塞栓症(VTE)などの血栓性疾患が高発現することが報告されている。その発現には, がん化学療法中の血液レオロジーの変化が関連している可能性が報告されているものの, 詳細については不明なままである。今回, 術後補助化学療法を施行した卵巣がん患者におけるVTE発現のリスク因子を明らかにすることを目的に後方視的に調査を行った。 【方法】2014年4月から2018年5月に, 当院産科婦人科にて術後補助化学療法(paclitaxel+carboplatin)を実施した卵巣がん患者を対象とした。術後補助化学療法6コース終了後2ヶ月までのVTE発現群および非発現群に層別化し, 各検査値(白血球数, 赤血球数, 血小板数, ヘモグロビン値, ヘマトクリット値, 血清アルブミンなど), 血漿浸透圧・粘度の比較を行った。さらに, 多重ロジスティック回帰分析によりVTE発現と各因子の関連性について検討した。なお, 本研究は, 大分大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した。 【結果】対象患者は48名であり, VTE発現群は5名, 非発現群は43名であった。両群について各種検査値および血漿浸透圧・粘度を比較したところ, 発現群において, 術後補助化学療法終了後に比較し, 終了2ヶ月後にはヘマトクリット値が有意に減少し(P=0.023), 血漿粘度が有意に増加していた(P=0.004)。一方, 非発現においては有意な変化は認められなかった。また, 発現群では非発現群に比較し, 化学療法終了後の血漿粘度が有意に高く(P=0.02), VTEの発現に有意に関連することが明らかとなった(オッズ比 : 2.23, 95%信頼区間 : 1.05-3.22)。 【考察】本研究により, 術後補助化学療法後の卵巣がん患者におけるVTEの発現には, ヘマトクリット値非依存的な血漿粘度の変化が関係していることが示唆された。本研究結果は、術後補助化学療法後のVTE発現の予防や治療法の指針作りの一助になると考えられる。
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