造血幹細胞移植後のタクロリムス(TCR)やシクロスポリン(CYA)といったカルシニューリン阻害薬(CNI)の血中濃度管理は移植片対宿主病(GVHD)発症予防や副作用回避の観点から重要である。平成28年度奨励研究(Time in Therapeutic Range による免疫抑制剤濃度管理の可能性検証)では、CNIの血中濃度が治療濃度域内にあった期間の割合(Time in Therapeutic Range : TTR)を指標として、薬剤師によるCNIの処方設計支援の効果を検証し、薬剤師介入群ではTTRが優位に上昇すること、すなわち血中濃度管理の精度が向上することを報告した。しかし、これらの検討では解析対象とした症例数が限られていたため、CNIの血中濃度コントロールに対する効果を検証することができず、解決すべきClinical Questionとして残されていた。そこで、本研究では先行研究からさらに症例数を増やし、薬剤師介入群と非介入群の間で腎障害の発現率を比較することで、造血幹細胞移植時の薬剤師による処方設計支援業務の臨床的有用性について検証した。対象は2006年1月から2019年1月までの同種造血幹細胞移植患者とし、生着不全症例、他の免疫抑制剤へ切り替えた患者は除外した。免疫抑制剤開始前のCre値より2倍以上上昇している症例を腎障害ありとした。TCR使用群は81名(介入群48名、非介入群33名)、CYA使用群は110名(介入群68名、非介入群42名)であった。CYAでは介入群が非介入群に比べて、腎障害発現率が有意に低い結果となった(13.2% vs 40.5%、P<0.01)。TCRでは有意な差は得られなかったものの、介入群で腎障害発現率が低くなる傾向が見られた。今後はGVHD発症率など、その他の臨床的アウトカムに関しても調査を進めていく予定である。
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