研究実績の概要 |
本研究では, メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症の中でも, 特に重篤で, 適切かつ迅速な初期治療薬による経験的治療が求められる菌血症に焦点を当てて, MRSA血液分離株分離症例の治療背景及び血液分離株の遺伝子型や薬剤感受性を調査し, これらの経年的動向について検討することを目的とした。 2009年~2016年の8年間において, MRSA菌血症の対する初期治療薬は, バンコマイシン(VCM), テイコプラニン(TEIC), リネゾリド(LZD), ダプトマイシン(DAP), アルベカシン(ABK)と多岐に渡っていた。ABKは使用頻度が最も少なかった。また, 2011年以降, DAPが上市されて以降は, 初期治療薬としてDAPが選択される症例も散見され, ABKを除く4つの抗MRSA薬は同様の使用頻度であった。分離株の抗MRSA薬に対する薬剤感受性については, 8年間でABK耐性株が1例検出されたのみで, その他の抗MRSA薬に耐性を示す菌株は検出されなかった。また, VCM治療失敗例や死亡例に関連すると報告されているVCMのMICが2μg/mLを示す株の検出頻度は全体の3%程度であり, 経年的な増加も認めなかった。LZDやDAPに関しても, MICが感受性域内で徐々に上昇していく“MIC creep”のような現象は認めなかった。また, 菌株のバイオフィルム形成性についてスクリーニングした結果, 全体の約10%程度が高バイオフィルム産生株であったが, その出現には経年的な傾向は認めなかった。 従来は, グリコペプチド系薬がMRSA菌血症に対する初期治療薬の中心であったが, 昨今では, 治療選択肢も幅広くなることで耐性菌や低感受性株の出現も抑制できていることが, 本研究より明らかとなった。しかしながら, 薬剤耐性と密接に関連するバイオフィルム産生株も散見されており, それらと関連する臨床背景や予後との関連性について, また本研究で実施できなかった遺伝子型の経年的動向についても, 今後継続して検討していく必要がある。
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