研究実績の概要 |
培養可能であった歯周病原因菌をヒト細胞(舌の扁平上皮癌細胞、形質転換繊維芽細胞)に感染させ、3種の歯周病原因菌Polphyromonas gingivalis, Aggregatibacter actinomycetemcomitans, Treponama denticola(以下P. g菌、A. a菌、T. d菌)が宿主染色体を切断する活性を持っていることを既に発見していたため、A. a菌についてさらに解析を進めた。A. a菌については細胞致死膨化毒素(Cytolethal Distending Toxin : CDT)を産生し、細胞にDNA一本鎖切断(single-strand break : SSB)を誘導することが知られている。チミジンブロック下にて細菌を感染させPFGEを行ったところ、切断DNAは認められなくなったことから、このDSB形成はDNA複製フォークの進行に依存していることが示唆された。よって、A. a菌が産生するCDTがSSBを誘導し、細胞周期依存的にDSBが形成されることが判明した。以上の結果により、A. a菌はCDTの分泌を介したDSBの誘導より、宿主細胞におけるゲノム不安定性のリスクを増加させ、発癌のリスクを増加させる可能性があることを証明できた。(2018年Teshima R. et al. Genes to cells) また、既に入手していた口腔癌患者とボランティアの検体のマイクロバイオームの再解析によって、口腔癌患者では、非腫瘍組織と比較し、腫瘍組織内では主要な歯周病菌であるCapnocytophaga sputigena, Fusobacterium nucleatum, T. d菌が増殖していた。さらに、Porphytmonas gingivalis, Prevotella intermediaの2菌は健常者では検出されず、口腔癌患者のみから検出された。このうちのT. d菌、P. g菌に関しては、in vitro実験において、DSB誘導の可能性が示唆されていたため、T. d菌、P. g菌に関して、再度検討を行ったが、P. g菌に関しては実験の再現性が得られず、また、T, d菌に関してはスピロヘータであり、増殖速度が遅く十分な量の菌が得られなかった。口腔癌患者のみから検出されたPrevotella intermediaに関しては菌株を入手し培養を試みたが、十分な菌量が得られず、感染までに至っていない。 今後はT. d菌、P. g菌、P. i菌に関しては、適した感染条件を決定し、DBS誘導能の有無を確認したいと考えている。また、好気性菌に関しては、5株を細胞に感染させたが、細胞の培地内で急速に増加し、細胞が死んでしまったので、好気性菌に関しても培養条件を検討し(感染時間の短縮や、細菌培養上清の添加など)、再実験を行いたい。
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