申請者は,2017年に超音波応答性抗がん薬「標的化PCND (Phase-change nano-droplet)」を用いた非侵襲超音波がん治療技術「選択的細胞内気泡化」を提案し, in vitroでの原理検証結果を発表した.これは抗腫瘍効果が機械的作用という,これまでに無い作用機序により治療を行う薬剤である.本研究課題では,これを臨床応用可能な治療技術として発展させるべく,担癌マウスモデルを用いた有効性の検証に挑んだ.具体的な達成目標として,超音波照射系と二光子イメージング系が統合された実験系を構築し,標的化PCNDの血中から腫瘍への蓄積,気泡化前後における細胞の変化,免疫系の応答を明らかにすることを掲げた. 本年度は二光子イメージングシステムに統合可能な超音波照射系の構築に取り組んだ.超音波照射系は,顕微鏡システムに容易に搭載可能な,4本の振動子が組みこまれた小型水槽とした.この超音波照射系を設計,構築し,音場をハイドロフォンとシュリーレンイメージングにより評価した結果,音波の集束が確認でき,最大負圧で4 MPaの圧力の出力が可能であることを示した.さらに,この超音波照射系を自作の明視野顕微鏡システムに組み込み,超音波照射により惹起される物理現象の可視化を行った.具体的には,アクリルアミドゲル中に固定したマイクロバブルに超音波を照射し,その振動を高速度撮影した. 本研究で開発した超音波照射システムを今後,二光子顕微鏡に組み込み,PCND気泡化により引き起こされる生命現象を明らかにしていく予定である.
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